
自己紹介をお願いします。
院長 村田さん:千歳船橋あむ動物病院の院長の村田結皆と申します。当院は父が築き上げた地域密着型の動物病院で、私自身もこの地域で育ちました。経歴としては日本大学を卒業して、大学病院で研修医として様々な症例を経験し、その後に父のもとで一般診療、地域医療の大切さ、そして獣医師としての心構えを深く学んでまいりました。2024年から私を中心とした新体制が始まり、11月に2代目の院長となりました。先代からの想いを引き継ぎつつ、新しい時代のニーズにも応えられるよう、スタッフ一同、日々研鑽を積んでおります。
趣味は…実はこれといってないんです(笑)。学生時代は9年間サッカーをやっていたのですが、運動神経はあまり良くなくて…(笑)。でも、食べることには目がなくて、好き嫌いなく何でも美味しくいただきます!
最近は、ありがたいことに毎日忙しくさせていただいており、妻には育児の面で負担をかけてしまっているなと反省しています。落ち着いたら、家族でゆっくり旅行に行きたいですね。国内の温泉もいいですし、海外のビーチリゾートでのんびり…なんていうのも憧れます。
千歳船橋あむ動物病院の設立日や病院名の由来を教えてください。
院長 村田さん:当院は1998年6月に、現在の場所の向かい側にある緑色の建物で、父である先代院長が開院したのが始まりです。おかげさまで、たくさんの飼い主様にご来院いただき、待合室が溢れてきたので2015年に現在の場所に移転しました。父の代から数えますと20年以上この地域で診療を続けております。
病院名の「あむ」は、父、村田貴志(あつし)の苗字と名前の頭をとったものです。父は常々「動物と人にやさしい動物病院」をモットーとしていたので、この想いは、私が2代目院長として引き継ぎ、これからも大切にしていきたいと考えています。
病院名とは直接関係ないのですが、当院の看板には猫のイラストが描かれているんです。看板の猫のモデルは、実家で飼っていた白猫の「たみお」なんです。私より3歳年上で、兄弟の様に一緒に育ってきました。その「たみお」のおかげか、当院では比較的猫ちゃんの受診率が高いように思います。正確なデータがあるわけではないのですが、一般的にワンちゃんと猫ちゃんの比率は7対3ぐらいと言われるなか、当院だと体感で6対4ぐらいと他の動物病院よりも猫ちゃんがやや多い印象ですね。

獣医師を目指したきっかけを教えてください。
院長 村田さん:私の実家は動物病院でしたので、地元では「村田さんの家は動物病院」というのが知れ渡っていました。そのため、子どもの頃から、学校の先生や友人たちに、動物のことについてよく相談を受けていたんです。でも、当時はまだ子どもでしたから、当然わからないことばかり。自分なりに一生懸命調べて答えるのですが、家に帰って父に話すと、「それは違うよ。正しくはこうだよ」と教えてもらうこともしばしば。翌日、学校で「実は…」と訂正するのが、なんだか日常のようになっていましたね(笑)。
そんな中で、特別な得意なことがなかった私にとって、動物のことに関しては周りから頼りにされているという感覚が、とても嬉しかったんです。「もっとちゃんと答えられるようになりたい」という気持ちが自然と芽生え、獣医師を目指すようになりました。物心ついた頃には、もう獣医師になるのが当たり前のような感覚でしたので、はっきり「いつから」とは覚えていないほどです。父だけでなく、親戚にも獣医師が4人いたので、そういった環境や遺伝的な影響も大きかったのかもしれません。
中学校までは地元の公立校に通っていましたが、高校進学のときに獣医学科を強く意識するようになりました。当時、全国に獣医学科のある大学は16校しかありませんでした。その中で日本大学、麻布大学、酪農学園大学には附属高校があって、内部進学ができる仕組みでした。自宅からの通いやすさも考えて、日本大学鶴ヶ丘高等学校を選び、獣医学部への内部進学を目指して一生懸命勉強しました。その甲斐あって、無事に日本大学の獣医学科に進学することができました。
今回、インタビューを受けてくださった理由をお聞かせください。
院長 村田さん:実は、最初にお話をいただいた時は、インタビューを受けるべきかどうか、かなり迷いました。私のような者が表に出るのもおこがましいような気もしまして…。
そんな時、当院のホームページ運営を手伝ってくれている高校時代からの友人に相談したんです。すると、「結皆の人柄が伝わるせっかくの良い機会だし、受けてみたら?それに、千歳船橋あむ動物病院のことを、地域の飼い主さんや、将来獣医師を目指す学生さんたちに知ってもらうきっかけにもなると思うよ」と背中を押してくれまして。
確かに、このような機会は滅多にありませんし、私自身、幼い頃からの思い出が詰まった当院のことをより多くの方に知っていただきたいという想いがありましたので、お引き受けさせていただくことにいたしました。友人には本当に感謝しています。そして、このインタビューを通して、少しでも当院の雰囲気や動物たちへの私たちの想いが伝われば嬉しいです。

「現場では授業で学んだことが全く生かせない」という学生の声を耳にすることがありますが、学校と現場でギャップを感じる理由は何でしょうか?
院長 村田さん:獣医療の教育と臨床現場の間には、いくつかのギャップが存在すると感じています。 まず、大学で授業を教えている先生のほとんどは二次診療施設の獣医師です。
大学病院など高度な医療を提供する二次診療に来る症例の傾向と、一般の動物病院で日常的に診る症例とでは、その傾向が大きく異なります。大学の授業では、どうしても難しい症例や専門的な内容が中心になりがちで、それが、一般診療で求められる知識やスキルとのズレを生む一つの要因になっていると考えられます。
次に、大学における獣医学教育の「教え方」にも課題があると感じています。臨床現場では、まず飼い主様から「下痢が続いている」といった症状を伺い、その原因となる病気を推測しながら問診や検査を提案していきます。しかし、大学の授業では、「この病気の症状は下痢、嘔吐…」というように、病名ありきで教えられることが多いのです。実際の現場では、問診と検査提案が最初のステップですから、この教え方では、学んだ知識と現場での実践が結びつきにくい。この流れを、現場での症例に沿って教えることができれば、学生さんも、よりスムーズに問診や検査提案ができるようになるはずです。
そして三つ目の問題として、「一般診療の責任範囲が明確でない」という点が挙げられます。例えば、急性胃腸炎。一般診療では、原因が特定できなくても、対症療法で改善するケースが8割程度を占めます。しかし、多くの場合、明確な診断基準がなく、確定診断名をつけることができません。「このお薬で良くなりますよ」と説明しても、飼い主様から「病名は何ですか?」と聞かれると、「急性胃腸炎です」とお答えするしかありません。しかし、その中には、ストレス性のもの、食あたりのもの、細菌性のもの、ウイルス性のものなど、様々な原因が含まれており、同じ薬で改善するとはいえ、厳密な意味での診断名とは言えません。
さらに、急性胃腸炎と診断された症例の中には、慢性腸症のケースが紛れていることもあります。本来ならば、お薬で改善しなかった場合に追加の検査を行い、慢性腸症と診断すべきなのですが、途中で別の病院に行ってしまうと、「前の病院は診断ミスをした」と捉えられてしまうこともあります。このような状況が続くと、新卒の獣医師に診察を任せるのが難しくなり、結果として、彼らが臨床現場で経験を積む機会を奪ってしまうことにもなりかねません。
もし、一般診療の責任範囲や、急性疾患に対する信頼レベル別の診断基準(例えば、犬の特発性てんかんの国際基準のようなもの)が明確になれば、新卒の獣医師も自信を持って診察にあたれるようになるでしょう。「このレベルまで診察できれば、一般診療の基準はクリア」といった明確な基準があれば、先輩獣医師も「この獣医師は基準を満たしているから、診察を任せられる」と判断しやすくなります。仮に何か問題が起きたとしても、「基準通りの診療を行っており、医療過誤ではない」とはっきりと説明できるため、安心して仕事を任せられるようになるはずです。
もちろん、基準を作る際には懸念点もあります。基準を厳しくしすぎると、獣医療業界全体が混乱してしまいますし、逆に緩すぎても意味がありません。適切なラインを、獣医師全体で慎重に議論していく必要があります。また、現状では病院ごとに診断名や処方する薬が異なることもありますが、ある程度の基準が統一されることで、こういったばらつきも減ってくるのではないかと期待しています。ただし、ガイドラインが厳格になりすぎると、各病院の設備投資費用が膨らみ、結果として医療費が高騰したり、柔軟な診療ができなくなって医療の発展を妨げたりする可能性もあります。その点は、十分に注意しながら議論を進めていくべきだと考えています。
獣医師の魅力とはなんでしょうか。
院長 村田さん:獣医師の魅力…。正直なところ、他の仕事をしたことがないので、客観的な比較は難しいのですが、それでも、この仕事ならではの魅力がたくさんあると感じています。
まず、獣医師という仕事は、非常に分かりやすい職業だと思います。「商社で働いています」と言うと、具体的にどんな仕事をしているのかイメージしにくいかもしれませんが、「動物病院で獣医師をしています」と言えば、ほとんどの方がすぐに理解してくださいます。これは、この仕事の大きな特徴であり、ある種の強みでもあると感じています。
そして、獣医師という仕事は、プライベートでも役立つことが多いんです。友人からペットの相談を受けることもよくありますし、初対面の方との会話でも、動物の話題はとても盛り上がります。そういった、人と人とのコミュニケーションのきっかけになるという点は、獣医師という仕事の大きな魅力の一つだと思いますね。
さらに、獣医学そのものが、非常に奥深く、面白い学問です。日々新しい知識を学び、それを実際の診療に活かすことができる。それが、動物たちの命を救うことにつながり、同時に、自分の家族を養うこと、つまり自分の収入にもつながっていく。知的好奇心を満たしながら、社会に貢献でき、そして生活の基盤も築けるという点では、本当に魅力的な仕事だと感じています。

飼い主様との接し方などで気をつけていることはありますか。
院長 村田さん:当院では、何よりもまず、飼い主様のご希望をしっかりと伺うことを大切にしています。その上で、獣医師として、医学的に適切な治療法の選択肢をいくつかご提案し、それぞれのメリット、デメリット、費用などを詳しくご説明するようにしています。
当院の強みは、最新の獣医学の知識に精通した獣医師が揃っていることですが、ともすると、医学的に標準的な治療を押し付けてしまうことにもなりかねません。ですから、受付スタッフや動物看護師も、積極的に飼い主様のお話に耳を傾け、ご希望やご不安な点を丁寧に伺うようにしています。
最終的にどの治療法を選ぶかは、飼い主様ご自身です。私たちは、その選択をサポートするために、十分な情報を提供し、一緒に考え、納得のいく治療法を共に探していく。その姿勢を何よりも大切にしています。
また、診察の際には、専門用語をなるべく使わず、分かりやすい言葉でお伝えするように心がけています。飼い主様は、大切なご家族であるペットの体調が心配で来院されているわけですから、ただでさえ不安な気持ちでいらっしゃるはずです。そのような状況で、耳慣れない専門用語ばかり並べられても、混乱してしまうだけだと思うんです。ですから、「これだけは絶対に覚えて帰っていただきたい」というポイントを2、3点に絞って、丁寧にお伝えするようにしています。
飼い主様からのフィードバックや、印象深いエピソードがあれば教えてください。
院長 村田さん:飼い主様とのエピソードで、今でも深く心に残っていることがあります。上顎に扁平上皮癌ができてしまった猫ちゃんのケースです。
診断の結果、通常であれば、外科手術による切除や放射線治療が第一選択となります。しかし、飼い主様は、「麻酔が必要な治療は避けたい」「できるだけ体に負担をかけず、穏やかに過ごさせてあげたい」という強いご希望をお持ちでした。
そこで、私たちは、確立された治療法ではないものの、トセラニブとNSAIDsという薬剤を用いた治療をご提案しました。これらの薬剤には、がん細胞の増殖を抑える効果が期待できます。飼い主様とじっくり話し合い、この治療法のメリットとデメリットを十分にご理解いただいた上で、一緒にこの治療法を選択しました。
治療を開始すると、一度、目に見えて腫瘍が小さくなったんです。飼い主様も、その改善を本当に喜んでくださいました。最終的には、外科手術や放射線治療を行った場合と同程度の、4ヶ月という時間を生き、亡くなる1週間前まで、とても元気に過ごしてくれました。
飼い主様は、この結果に心から満足され、猫ちゃんが亡くなった後、わざわざお礼の言葉を伝えに来てくださいました。「この治療を選んで本当に良かった」「最期まで穏やかに過ごさせてあげることができて、本当に良かった」と涙ながらにおっしゃってくださったんです。
この経験を通して、私は、医学的な正しさだけを追求するのではなく、飼い主様が心から納得し、安心できる選択肢を提供することの大切さを、改めて深く実感しました。これからも、飼い主様の気持ちに寄り添い、共に考え、共に最善の治療方針を見つけていく、そんな獣医療を実践していきたいと思っています。

先生の得意な専門領域はありますか。
院長 村田さん:私の得意な専門領域は、循環器疾患です。心臓や血圧に関わる病気を診る分野ですね。
実は、最初から循環器が好きだったわけではないんです(笑)。学生時代に循環器チームに所属したのがきっかけで、勉強や診療を続けていくうちに、自然と得意になっていきました。獣医師を目指したきっかけと同じように、周りの人から「教えて」と頼られることが増え、難しい症例を任されるようになり、気づけばどんどん専門性が高まっていた、という感じです。
循環器の診察では、レントゲン検査で心臓の形や大きさを確認したり、肺の状態をチェックしたりします。また、超音波検査や心電図検査を行い、症状が心臓病によるものなのか、それとも別の原因によるものなのかを見極めます。これらの検査結果の解釈が非常に重要で、同じ治療薬でも、使い方によっては劇的に効果を発揮することもあれば、逆に体に悪い影響を与えてしまうこともある。そこが、循環器診療の難しさであり、同時に面白さでもあると感じています。
ワンちゃんで特に多いのは、「僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁粘液様変性)」という病気です。最近では「僧帽弁粘液様変性」と呼ばれるようになりましたが、まだ一般的には「僧帽弁閉鎖不全症」と言ったほうが伝わりやすいので、飼い主様への説明の際には、こちらの呼び方を使うこともあります。他には、他の病院で原因不明の心臓病と診断された子が、実は肺高血圧症だったというケースも時々あります。
猫ちゃんの場合は、「肥大型心筋症」という病気が多いですね。この病気については、5年前にようやくガイドラインができましたが、まだ曖昧な部分が多く、今後さらに研究が進み、診断や治療法が変わっていく可能性があります。
また、猫ちゃんの高血圧症は、見逃されやすい病気の一つです。「吐く」「ふらつく」といった、心臓病とは直接関係なさそうな症状で来院され、念のため血圧を測ってみると異常に高い、というケースが少なくありません。動物の血圧測定は、ヒト医療に比べて難しいこともあり、検査が見送られてしまうことも多いのですが、適切な治療を始めると、すぐに体調が良くなる子も多いんですよ。
病院で働いている獣医師、スタッフは何名いらっしゃいますか。
院長 村田さん:私を除くと、獣医師は4名、動物看護師は現在3名おります。
動物看護師のうち1名は育児休暇中、もう1名は子育て中のため時短勤務という形ではありますが、嬉しいことに、これから新たに動物看護師が2名入職予定です。これにより、動物看護師は計5名となり、スタッフも増加傾向にあり、活気が出てきていると実感しています。
さらに、アルバイトとして、獣医学生1名、動物看護学生4名の計5名の学生さんが、当院で活躍してくれています。彼ら彼女らは、本当に意欲的で優秀、そして何より頼りになる存在です。
私自身、学生時代に獣医療の現場で働いていた経験がありますので、「学生は何が分からないのか」「どうすれば学生が学びやすいのか」を、ある程度理解できているつもりです。その経験を活かして、学生さんたちには、できるだけ実践的な指導を心がけています。彼ら彼女らが、将来、即戦力として活躍できるよう、積極的に現場での経験を積めるような環境づくりにも力を入れています。
このように、多くの優秀なスタッフ、そして未来の獣医療を担う学生さんたちが集まってくれることは、当院が地域から信頼され、成長を続けている証だと感じており、大変嬉しく思っています。

実際のところ、残業はどれぐらい発生しているんでしょうか。
院長 村田さん:残業時間については、正直にお話ししますと、現在、大きな課題を抱えている状況です。特に獣医師の残業については、固定残業代をお支払いしているものの、実際の残業時間に見合った額を支給できていないのが現状です。これは決して良いことではないと認識しており、早急に改善しなければならないと考えています。
ただ、一度に全てを改善するのは難しいのが現実です。そこで当院では、まずは動物看護師の労働環境を整えることを最優先に取り組んでいます。今のところ、動物看護師の残業は1日1時間以内、遅くとも19時30分には退勤できるように調整しています。
現状、獣医師の皆さんには、どうしても負担を強いてしまっている状況であり、本当に申し訳なく思っています。しかし、まずは動物看護師の働きやすい環境を確立することが、獣医師の労働環境改善への第一歩だと考えています。優秀な動物看護師が揃えば、獣医師の業務の一部をサポートしてもらうことができ、結果として、獣医師の負担軽減にもつながると考えているからです。
最終的な目標は、獣医師、動物看護師、全てのスタッフが、適切な労働時間で働ける環境を整えることです。その目標に向かって、どのような戦略で、どのような順番で取り組んでいくか。今は、それを真剣に考え、実行に移している段階です。当院では、まずは動物看護師の労働環境を整え、その次に獣医師の労働環境改善に取り組む、という方針で進めています。
ペット業界をより良くしていくために、どのような変化が必要だと感じますか?
院長 村田さん:ペット業界をより良くしていくためには、大きく分けて二つの変革が必要だと感じています。一つは「獣医療の質の向上」、もう一つは「動物病院のあり方」です。
まず、「獣医療の質の向上」について。現在、多くの動物病院が全科診療を行っていますが、獣医師にもそれぞれ得意分野、不得意分野があります。全ての獣医師が全ての診療科に対応するのは、現実的には難しい。そこで、業界全体で一般診療のガイドラインを整備し、個々の獣医師に求められる診療範囲を明確化するとともに、それぞれの得意分野を活かせるような環境を整える必要があると考えています。そして、チーム医療の推進です。それぞれの獣医師が得意分野を活かし、互いに協力し合うことで、より質の高い獣医療を提供できる体制を構築していくべきです。
次に、「動物病院のあり方」について。当院もそうでしたが、多くの動物病院は、これまで診療以外にも、トリミング、ペットホテル、しつけ教室など、様々な業務に携わってきました。しかし、それぞれの分野でより専門性の高いサービスを提供するためには、外部の専門家との連携を強化していくことが、飼い主様にとっても、動物たちにとっても、より良い選択肢を増やすことにつながると考えています。
ここで重要な役割を果たすのが、2022年に国家資格となった愛玩動物看護師の存在です。愛玩動物看護師は、これまで獣医師が行っていた業務の一部を担うことができ、診察や検査のサポート、さらには飼い主様へのケアや説明、動物たちの日常的な健康管理のサポートなど、幅広い分野で専門的な知識と技術を発揮できます。例えば、歯磨き指導、高齢動物の介護相談、お薬の飲ませ方指導、フードの相談など、飼い主様に寄り添った、きめ細やかなアドバイスを行うことができます。愛玩動物看護師がその専門性を十分に発揮することで、獣医師はより診療に専念できるようになり、結果として、動物病院全体の医療水準が向上すると期待しています。
また、業界全体で労働環境の改善にも取り組む必要があります。私がこれまで見聞きしてきた医療ミスの原因の多くは、獣医師やスタッフの疲労の蓄積、あるいは職場内のコミュニケーション不足によるものです。これらの問題を解決するためには、スタッフの勤務時間の見直しはもちろん、情報共有を徹底するためのシステム導入や、誰もが意見を言いやすい、風通しの良い職場文化を醸成することが重要です。特に、愛玩動物看護師を含めた全てのスタッフが、それぞれの役割を明確に理解し、互いに連携し合うことで、チーム全体の効率が上がり、最終的には飼い主様と動物たちへのケアの質の向上につながると信じています。
これらの取り組みを通じて、ペット業界全体が連携し、飼い主様と動物たちにとって、より安心で、より質の高いサービスを提供できる、そんな未来を築いていきたいと考えています。

獣医師になって良かったな、と感じる瞬間はありますか。
院長 村田さん:そうですね。最近、「獣医師になって良かった」と心から思える瞬間が増えてきたように感じます。それは、若手獣医師たちが、のびのびと力を発揮できる環境を、この病院で創り出せていると実感できるようになったからです。
獣医療は日々進歩しており、若い世代の獣医師たちは、大学で最新の知識や技術を学んでいます。しかし、彼ら彼女らが臨床現場に出ると、昔ながらのやり方を続けている上の世代とのギャップに悩み、苦しむことが多いのです。例えば、スタンダードな治療法を提案しても、「自分のやり方とは違う」という理由で否定されてしまう。新しい治療法があることを知っていても、それを言い出すことができず、結果的に、従来の方法に従わざるを得ない…。
そういった状況を、私自身も見聞きしてきました。だからこそ、当院では、学生時代から優秀だった同級生や後輩たちに声をかけ、一緒に働ける環境を整えました。彼ら彼女らは、本当に素晴らしい知識と技術を持っているにも関わらず、以前の職場では「上の指示に従わなければならない」「上司のためではなく、患者さんのための診療がしたい」といった悩みを抱えていたんです。そんな彼ら彼女らに、「うちで自由に診療してみないか?」と声をかけ、当院に迎え入れました。
その結果、彼ら彼女らは、持てる力を最大限に発揮できるようになり、患者さんたちも、より最善の治療を受けられるようになりました。そして何より、以前の職場ではどこか暗い表情をしていた彼ら彼女らが、今は本当に生き生きと、楽しそうに働いている姿を見ることが、私にとって、この上ない喜びとなっています。
能力のある獣医師が、正当に評価され、のびのびと診療できる場所を創れたこと。それが、私が獣医師になって良かったと、最近特に強く感じていることです。もちろん、獣医師という仕事は、正直に言うと、つらいことの方が多いかもしれません。学生時代は理想を抱いていましたが、現実はそう甘くはなく、落ち込むことも少なくありません。それでも、この喜びがあるからこそ、私は獣医師を続けていけるのだと思います。
緊急対応の体制について教えてください。
院長 村田さん:当院では、ペットの緊急事態に、迅速かつ適切に対応できるよう、詳細な「緊急対応マニュアル」を整備しています。例えば、「意識がない」「呼吸が苦しそう」「大量に出血している」「交通事故にあった」など、緊急性の高い症状別に、具体的な対応手順を定めています。これにより、獣医師だけでなく、受付スタッフや動物看護師も含めた院内スタッフ全員が、迷わず、一定の基準に基づいて行動できる体制を確立しています。
また、飼い主様から緊急のご連絡をいただいた際には、「テレフォントリアージ」を実施しています。これは、受付スタッフまたは動物看護師が、あらかじめ定められたチェックリストに基づいて、電話でペットの症状を詳しく伺いながら緊急度を判断するものです。「すぐに来院が必要なケース」なのか、「夜間救急病院にご案内すべきケース」なのか、あるいは「ご自宅で様子を見ていただいて大丈夫なケース」なのか。専門的な知識を持ったスタッフが的確に判断し、飼い主様に具体的なアドバイスをさせていただきます。
緊急時は、飼い主様にとって、非常に不安が大きいものです。電話口で「すぐに診てもらえますか?」「どうしたらいいですか?」と動揺されている飼い主様に対しては、まずは落ち着いていただけるよう、優しく、丁寧な言葉遣いを心がけています。そして、一つ一つの質問に丁寧に答え、飼い主様の不安を少しでも和らげることができるよう努めています。
迅速な対応はもちろんのこと、飼い主様の心に寄り添った、きめ細やかなコミュニケーションを大切にし、動物たちと飼い主様の安全と安心を守るために、全力を尽くしています。

ホームページ以外にSNSなどの運用はされていますか。
院長 村田さん:現在、当院では、ホームページ以外にSNSの公式アカウントは運用しておりません。SNSについては、様々な動物病院のホームページ、ブログ、SNSなどを参考に、情報発信のツールとして、その有用性は十分認識しております。しかし、拝見していると、途中で更新が止まってしまっているケースも少なくないようです。
もし当院でSNSを運用するとなると、まずは無理なく続けられるシンプルな形にする必要があると考えています。そして、やるからには、きちんと継続していきたい。しかし、現状では、日々の診療や、スタッフのサポート、そして何より、スタッフの労働環境を整えることに最優先で取り組んでおり、SNSの運用にまで手が回らない、というのが正直なところです。
当院では、スタッフが心身ともに健康で、長く働き続けられる環境を整えることが、結果として、飼い主様と動物たちへのより良い医療サービスの提供につながると考えています。そのため、現時点では、リソースをSNS運用に振り向けるよりも、スタッフの労働時間管理、業務効率化、スキルアップ支援などに注力しています。
そういった状況を踏まえ、今はあえてSNSの運用は行っておりません。しかし、将来的には、例えば、スタッフの負担を増やさずに、飼い主様にとって有益な情報を発信できるような体制が整えば、SNSの活用も検討していきたいと考えています。
最後に、お伝えしたいことや今後の目標があればお聞かせください。
院長 村田さん:今後の目標は、全てのスタッフが、それぞれの専門性を最大限に活かし、獣医療に専念できる環境を整えていくことです。
現在、診療を担当する獣医師の負担が大きいこと、また、動物看護師も、診察や検査のサポート以外に、在庫管理などの事務作業に多くの時間を割かれていることを、私自身、大きな課題だと認識しています。
そこで、まずは、スタッフの負担を軽減するために、業務の効率化に積極的に取り組んでいきたいと考えています。例えば、当院では専門の清掃スタッフを導入する予定です。これにより、院内の清掃業務をスタッフが行う必要がなくなり、その分の時間を診療や看護に充てられるようになる見込みです。今後は、受付業務の自動化も検討しています。受付に自動精算機などを導入することで、事務作業にかかる時間を削減し、動物看護師が本来の業務である動物たちのケアに、より集中できる環境を整えていきたいと考えています。
職場の人間関係を良好に保ち、業務効率を改善し、スタッフ全員がそれぞれの専門業務に集中できる環境を創り出すこと。それが、結果として、患者さんである動物たちへの、より質の高い獣医療の提供につながると信じています。
もちろん、こうした環境整備の過程では、飼い主様にご不便をおかけすることもあるかもしれません。しかし、それは、より良い獣医療を提供するための、一時的な変化であるとご理解いただきたいのです。私たちは、常に飼い主様と動物たちのことを第一に考え、最高の獣医療を提供できるよう、これからも全力を尽くしてまいります。どうか、温かく見守っていただけますよう、心よりお願い申し上げます。

施設情報
千歳船橋あむ動物病院
〒156-0054 東京都世田谷区桜丘5-20-14シンエイ第3ビル1階
03-3428-1433 https://am-ah.jp/
※インタビューの情報は2025年2月現在のものとなります。
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