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わんちゃんの貧血の謎:犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)とは?症状や治療法をわかりやすく解説

自己の免疫が赤血球を攻撃してしまい、貧血を引き起こす病気を、「免疫介在性溶血性貧血」と呼びます。健康な犬の場合でも、赤血球が通常の半分以下に減少することがあり、貧血が進行しやすい傾向にあります。この疾患は、血液の凝固系にも影響を及ぼすため、全身のショック症状が現れる恐れがあります。まさに重大な疾患です。


わんちゃんと獣医師

【免疫介在性貧血(IMHA)とは】

自分の体の防御システムである免疫機能が異常を起こし、なんらかの症状を引き起こす病気を、「免疫介在性疾患」といいます。

免疫介在性溶血性貧血も、その一例です。

本来、免疫細胞や抗体は、異物を見極めて排除する役割を果たしています。しかし、時にはその仕組みが誤作動し、自身を攻撃してしまうことがあります。

その中で、赤血球を誤って敵とみなし、自己抗体によって溶血が引き起こされるのが、「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」です。


貧血の種類

貧血の種類には、大まかに3つあります。


  1. 出血による貧血:血管外に赤血球が出ることで起こります。交通事故など外傷性の大量出血が典型的な例ですが、腹腔内出血など外からは見えにくい場合もあります。

  2. 赤血球生成不全による貧血:鉄欠乏性貧血や骨髄の異常、抗がん剤の副作用などが原因です。出血による貧血と比べて進行がゆっくりです。

  3. 溶血性貧血:赤血球が破壊されることで起こります。破壊された赤血球から血色素が流出し、血色素尿や黄疸などの症状が見られます。新しい赤血球が生産される速度に追いつかないため、貧血が進行します。このタイプの貧血の原因には、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の他にも、細菌感染や寄生虫感染、玉ねぎ中毒、ヘビの毒などがあります。


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【犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)に罹りやすい犬種・年齢は】

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)は、一般的に中高年の犬によく見られますが、年齢にかかわらず発症する可能性があります。コッカー・スパニエル、プードル、ビション・フリーゼ、そしてコリー系品種が発症しやすいとされていますが、どの犬種にも発症する可能性があることを認識しておく必要があります。



【犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の症状は】

典型的な症状は、赤血球数の減少(貧血)によるものです。


初期症状

貧血の兆候として、歯茎や舌の色が薄くなることや、元気がなくなることがあります。

しかし、家庭では歯茎や舌の色の変化に気づきにくいようです。

元気がなくなるサインは、例えば「散歩中に疲れやすくなった」「以前より動きたがらない」「寝ている時間が長くなった」といった変化で表れることがありますが、これらは環境や生活習慣の影響でも見られるかもしれません。

「暑いから夏バテかもしれない」「歳をとったからかもしれない」「太ったからかもしれない」「もともと関節が弱いからかもしれない」といった理由があると、元気がなくなるサインは見逃されがちです。

この段階で貧血が見つかる場合、動物病院での診察で獣医師が視診の際に気づいたり、他の目的で行った血液検査で偶然にも見つかることがよくあります。


症状が進行すると

激しい溶血が起こると、尿が赤くなること(血色素尿=ヘモグロビン尿)、黄疸で白目や歯茎が黄色くなることがあります。発熱もみられます。特に赤色の尿は家庭で気づきやすいので、この時点で受診することが多いです。


また、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)では、血栓症のリスクが高まることがあります。血管内の小さな血栓が全身の血管を詰まらせ、多臓器不全を引き起こすDIC(播種性血管内凝固)という病気を併発することがありますので、迅速な対応が必要です。


IMHAでは、残念ながら命を失うケースもあります。直接の死因は貧血ではなく血栓塞栓症のことも多いようです。この病気で亡くなった犬の調査結果では、約8割に血栓症が見られたと報告されています。


赤い尿や黄疸が見られる原因は様々ですが、気づいたらすぐに受診するよう心がけましょう。


わんちゃんと獣医師

血液検査でみられることのある異常

血液検査でみられる代表的な異常は次の通りです。


・赤血球数(RBC)の減少


・赤血球容積(PCV)またはヘマトクリット(HCT、Ht)の減少


・ヘモグロビン量(Hb、Hgb)の減少。※必ずしも低下しない場合もあります。


PCVは、血液中の赤血球の体積の割合を示す数値で、血液の濃さや貧血の指標となります。通常の範囲は37~55%ですが、健康な犬でも個体差があります。

PCVが18%以下では重度の貧血、18~29%では中程度の貧血、30~36%では軽度の貧血とされます。


ただし、脱水状態では血液が濃縮されるため、貧血があってもこれらの検査数値が偽の正常値を示すことがあります。併発疾患の影響もあるため、血液検査の結果は犬の全身状態と総合的に評価する必要があります。


RBCやPCV、Hbの低下は貧血を示しますが、貧血のタイプまではこれらの結果からは判断できません。出血の有無や新しい赤血球の生成、ビリルビン値(古くなった赤血球が破壊されるときに生成される黄色い色素)などを考慮して、貧血の原因を特定します。


免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の原因を確認する方法として、クームステストがあります。このテストでは、赤血球に結合した自己抗体の存在をチェックします。通常、自己抗体は体外の異物に反応しますが、IMHAの場合、赤血球に結合することがあります。


血液を特殊な液体で混ぜ、赤血球の凝集を見ます。自己抗体がある場合は凝集が起こります。この結果が陽性なら、IMHAの可能性が高いです。


ただし、必ずしも正確ではないので、獣医師が他の情報と組み合わせて診断します。


【犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の原因は】

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の原因は、大まかにふたつに分かれます。


  1. 原発性または特発性の場合:具体的な原因がわかりません。犬の免疫システムや体質に何らかの異常が生じ、自己抗体が作られる可能性が考えられます。

  2. 二次性の場合: 二次性IMHAは、赤血球が異物と誤認識され、それに反応して自己抗体ができることで発症します。例えば、輸血や悪性腫瘍、寄生虫感染、ハチ刺されなどが挙げられます。根本的な疾患の治療(例えば寄生虫の駆除)が必要な場合もあるので、全身状態を把握することが重要です。過去の輸血歴や大きな病気の治療歴などは、獣医師に伝えると良いでしょう。


【犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の治療法は】

治療の基本は3つあります:免疫抑制剤、輸血、そして血栓予防です。

他にも、ヒト免疫グロブリン製剤を使って一時的に溶血を抑える方法があります。

さらに、間葉系幹細胞を利用した再生医療も研究段階ではありますが、治療の可能性が開かれつつあります。


貧血の数値を完全に正常値に戻すのは難しい場合もあります。しかし、軽度から中等度の貧血が続いても、全身状態が安定している場合は、普段通りの生活を送ることができる犬もいます。


治療の最終目標は、犬が元気に暮らし、貧血の数値が安定し、薬との付き合い方を理解し、調和を保つことです。


  • 免疫抑制剤 免疫抑制剤は、自己抗体が赤血球を攻撃するのを抑えるために使われます。一般的には、プレドニゾロンなどのステロイドが使われますが、効果が見られない場合や予後が悪いと見込まれる場合には、シクロスポリンやアザチオプリンなどの別の種類の免疫抑制剤も併用されることがあります。 これによって、赤血球が壊れにくくなり、新しい赤血球が生まれて貧血の症状が改善されます。改善が見られたら、徐々に薬の量を減らしていきます。減薬は通常数か月単位で行われ、治療期間は長くなることがあります。

  • 輸血 貧血が深刻な場合、新しい赤血球ができるまで待つ余裕がないため、輸血が行われます。免疫抑制剤の効果が現れるまでの間、輸血は支持療法として用いられます。 全血輸血では、赤血球だけでなく、凝固系の成分も補充されるため、血栓症の予防にも役立ちます。 輸血は免疫介在性溶血性貧血の緊急処置として行われます。しかし、輸血だけでは赤血球数を正常値まで回復させるのは難しく、中程度の貧血を目指すのが現実的です。 輸血で補充された赤血球も自己抗体に攻撃される可能性があるため、輸血は臨時の救済策に過ぎません。根本的な治療は、免疫抑制剤で溶血を抑え、新しい赤血球が速やかに生成されるようにすることです。

  • 血栓予防:血栓予防は、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)治療の重要な一環です。IMHAは血栓症を引き起こしやすいことが知られています。 過剰な止血反応によって、血管内に不要な血栓が形成され、これが全身の血管を詰まらせ、重篤な多臓器不全を引き起こすことがあります。また、必要な止血成分が消耗され、本来の止血が妨げられる可能性もあります。 このような血液凝固の異常を「DIC(播種性血管内凝固)」と呼びます。 DICを予防する方法の一つとして、抗血栓薬があります。これには、アスピリン、ヘパリン、クロピドグレルなどが含まれます。これらの薬は血液をサラサラにし、血栓の形成を防ぐ効果があります。

    血液凝固の検査結果から、必要な凝固因子が不足している場合は、輸血によって補充することも考えられます。

    IMHA治療において、血栓対策は重要な側面であり、これによって合併症のリスクを軽減することが期待されます。



  • ヒト免疫グロブリン製剤:ヒト免疫グロブリン製剤は、溶血を防ぐために静脈注射される治療法の一つです。

    この治療法では、他からの抗体を血管内に注入することで、赤血球に対する自己抗体との争いを和らげ、赤血球を壊す反応を抑制します。 ヒト免疫グロブリン製剤は、人間の血液から取り出された成分で作られる生物学的製剤です。速やかな効果が期待できますが、複数回使用するとアナフィラキシーショックのリスクがあるため、繰り返しの使用は難しいですし、高額な費用がかかります。 しかし、重度の貧血や輸血が必要な緊急時には、頼りになる治療法です。


  • 再生医療:再生医療は、身体の自然な治癒力を活かした治療法です。 犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の治療において、再生医療は特に注目されています。この治療法では、特別な細胞や成長因子を使用して身体の異常な免疫反応を抑え、赤血球の再生を助けることが期待されています。

    ただし、再生医療はまだ実用化されていない段階であり、獣医師との相談や最新の研究情報を参考にすることが重要です。将来的には、この革新的な治療法がIMHAの治療に新たな希望をもたらすかもしれません。



【犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の治療費や通院期間】

犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の治療費は、通院回数や治療内容によって異なりますが、一般的には1回あたり約11,124円程度で、年間通院回数は約6回程度です。


【犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の予防法】

原発性や特発性の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の予防方法は現在わかっていませんが、二次性の場合、特にバベシア感染と関連する予防策が重要です。


バベシアは、小さな寄生虫で、マダニによって伝播されます。マダニに刺されることで感染が広がりますので、マダニに刺されないように気を付けることが大切です。山や草むらなどマダニが多い場所に犬を連れて行かないようにしましょう。特に雨上がりの時期はマダニが活発になるので、注意が必要です。


また、犬の生活環境や健康状態に応じて、適切なマダニ予防薬を使用することが重要です。特に屋外活動が多い場合やキャンプなどの予定がある場合や、バベシアが流行している地域に住んでいる場合は、かかりつけの獣医師と相談して、適切な予防策を考えましょう。


わんちゃんと獣医師

【まとめ】

犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)は、深刻な病気であるとともに、予測が難しく突然発症することもあります。しかし、正しい治療と適切なケアがあれば、多くの場合、犬たちは元気に生活を送ることができます。症状や治療法については、かかりつけの獣医師と密に連携し、適切な対処を行うことが大切です。また、病気に対する予防策や定期的な健康管理も重要です。

大切な家族である犬たちの健康と幸せを守るために、いつも注意深く見守り、愛情を注いであげましょう。

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